【ポピュラー文化の余白:2026-10-30】野木亜紀子の政治ドラマ『ポリティカルパン』、ちばてつやさんを惜しむ、日本社会で持て余される天才を描く『ダイヤモンドの功罪』

野木亜紀子脚本の政治ドラマ『ポリティカルパン』を追い、亡くなったちばてつやさんのことを振り返り、『ダイヤモンドの功罪』に突出した才能を持て余す日本社会を思う──週に一度、ポピュラー文化の余白を覗く短評集です。
松谷創一郎 2026.10.30
読者限定

◇『ポリティカルパン』──官房機密費を狙う怪盗と強いキャスト

 この秋は観ているドラマが多くて大変なのですが、フジテレビ水10ドラマの『ポリティカルパン』も追っています。第4話まで放送・配信されていて、観たのは4話の冒頭まで。これ、面白いですよ。

 石原さとみさん演じる大泥棒の如月弥生が、元総理の娘・小早川雅(河合優実)を国会議員に担ぎ出し、首相官邸の金庫に眠る官房機密費を盗み出そうとするという話。第2話であっさり雅が当選し、弥生は秘書として永田町に入り込みます。脚本は野木亜紀子さん。

 第3話から話がかなり動きはじめました。まず扱われたのは誹謗中傷動画の問題で、どうやらある企業が関わっているらしいというエピソード。ほかにもさまざまなエピソードが出てきますが、この10年ほどの日本社会で起きてきた問題がいろいろとちりばめられている印象です。

 実際に、Xで野党議員への中傷を繰り返していた匿名アカウント「Dappi」の問題がありました。2023年には、裁判で投稿が都内のIT企業の業務として行われたと認定されましたが、その企業が誰から依頼を受けていたのかは明らかになりませんでした。自民党とのつながりは取り沙汰されたまま、グレーな状態で終わりました。報道は証拠がないと踏み込みにくいですが、そうした領域を泥棒もののコメディとしてフィクションに落とし込んでいるところに、とても意義を感じます。あと、4話の冒頭でもパーティーの裏金問題も扱っていますね。裏金議員が辞任した直後なので、タイミングばっちりでしたね。

 日本では投票率がなかなか上がらず、選挙や政治への関心はそれほど強くありません。そこに関心を持ってもらいながら、ちゃんとエンタテインメントとして楽しめるものにしようとしています。この10~20年、多くの人がおかしいと思いながら、報道ではなかなか切り込めなかった政治の問題に積極的に向き合おうとしているのでしょう。野木さんの強い意思を感じます。

 舞台を日本によく似た架空の国「ニッポニア」としている点は、最初は腰が引けているように感じました。ただ高市早苗総理が総務大臣だった2016年、政治的公平性を欠く放送を繰り返した場合には電波停止もありうる、と国会で答弁したんですよね。報道への規制をも匂わせる発言でした。そうした人物が総理である状況を意識したうえで、あえて「ニッポニア」にして思い切りやりたいことをやっている、ということなのでしょう。

 もちろん韓国のドラマなら、こういう腰の引き方はしないはずです。ただ日本では、このやり方のほうが局内でも話を通しやすいでしょうし、視聴者も架空の国として受け止められる。リアリティラインがふわっとしているのは日本的で、必ずしもいいことだとは言えませんが、戦略なのだと思います(架空の国を舞台にしながら、なぜか中国だけを実名で出していた『VIVANT』のような例もありますが)。

 テンポもとてもいい。先日インタビューした佐野亜裕美さんの『銀河の一票』も政治ドラマでしたが、あちらのテーマは民主主義でした。東京の地方選挙を舞台に、草の根の人びとが選挙に挑む過程をボトムアップで描いていて、選挙後はほとんど描かれていません。対して『ポリティカルパン』は、選挙の先にある国政の暗部をコミカルに描こうとしています。

 一方で両作には共通点もあります。主人公も含めた中心人物が女性だということ。女性の政治家と彼女を支える女性のスタッフが、選挙を戦い、男性ばかりの永田町で動いていく。その点でも、この2作は並べて観る意味があると思います。

 キャストも強い。石原さとみ、高橋一生、河合優実。数字を取りそうなキャスティングです。とくに河合さんはいいですよね。私が彼女を知ったのは、佐野さんがプロデュースしたNHKの『17才の帝国』(2022年)でした。まだ無名でしたが、すごいなと思ってすぐにググったのをよく覚えています。朝日新聞の記事には載りませんでしたが、佐野さんともその話をしたんですよ。あれから着実に結果を出していますよね。

 日本で政治は一般の人がそれほど関心を持つ題材ではありません。視聴率も3話まではとりわけ良くはないようです。野木さんの脚本なので、内容的には安定して進んでいくでしょう。第3話からちゃんと面白くなっているので、もっと注目されるようになるかどうか。

◇LISA「Tarantino」──世界でいちばん有名なタイ人のタランティーノ愛

 BLACKPINKのLISAの新曲は「Tarantino」でした。タイトルどおり、クエンティン・タランティーノへのリスペクトを込めた曲です。10月23日に出た初のEP『PRESS PLAY』の収録曲で、EP自体も映画をテーマにしています。

 ミュージックビデオも、タランティーノ作品から着想を得たアクション満載の映像で、LISAが監督へメッセージを届けるために旅をするという内容だそうです。歌詞にも『キル・ビル』や『デス・プルーフ in グラインドハウス』を思わせるフレーズが出てきます。

 『デス・プルーフ』は、タランティーノ作品のなかではそれほど有名ではないかもしれませんね。カーチェイスの映画で、本物のスタントウーマンであるゾーイ・ベルが本人役で出ていました(あまり覚えていないのですが)。

 LISAがタランティーノ好きだというのは、ちょっと意外でした。彼女は1997年生まれなので、物心ついたころにはタランティーノはもういろいろな作品を撮っていたことになります。『レザボア・ドッグス』が1992年、『パルプ・フィクション』が1994年かな。私はちょうど美大生のころで、『パルプ・フィクション』は美大生のあいだではかなり話題になりました。私もすごく面白くて、観たその足でサントラを買いに行ったくらい興奮しましたね。

 先日このコーナーで、BLACKPINKの4人のソロ曲のなかで、リサの「SaWaDiKa」がいちばんヒットしているという話を書きました。その次がこれなんだな、という感じで見ています。個人的には、ソロになって面白いのはやっぱりRoseですし、ヒットはしなかったけれどJennieの曲もよかった、という話も前に書きました。

 なんにせよ、LISAがK-POPから出ていって、ここまで世界的な存在になったのは本当に面白いですね。いまや、世界でいちばん有名なタイ人です。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、5218文字あります。

すでに登録された方はこちら

読者限定
【Column】Mrs. GREEN APPLE「シンデレラ」の論点─...
サポートメンバー限定
【ジャニーズと日本社会:26】なぜ顔を隠したのか──裁判と性加害疑惑か...
読者限定
【ポピュラー文化の余白:2026-10-23】増え続ける映画のショット...
読者限定
ゲームは「ゲーム」でなくてもよかった:2──プレステとサターンを買った...
サポートメンバー限定
【ジャニーズと日本社会:25】「写してもらいたくない」──1965年、...
読者限定
【ポピュラー文化の余白:2026-10-16】ムカサリ絵馬と『山寺グラ...
読者限定
【Column】それは本当に伝統なのか──だんじりと土俵と「現状維持」...
サポートメンバー限定
【ジャニーズと日本社会:24】「育ての親ジャニー喜多川さん」──196...