【ポピュラー文化の余白:2026-10-16】ムカサリ絵馬と『山寺グラフィティ』、韓国版『ドクターX』、京城のスリを描く『100日の嘘』

山形の習俗に藤子・F・不二雄の元ネタを見つけ、韓国版『ドクターX』の創り直しに感心し、『100日の嘘』の出来に唸る──週に一度、ポピュラー文化の余白を覗く短評集です。
松谷創一郎 2026.10.16
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  • 今月のラインナップ

  • ムカサリ絵馬と『山寺グラフィティ』──藤子・F・不二雄の「元ネタ」に気づく

  • 『リンダ リンダ リンダ』──ゼロ年代日本映画の最高傑作のひとつ

  • 『アストリッドとラファエル』が東京へ──NHKエンタープライズとの国際共同制作

  • 『ドクターX』韓国版──同じ筋書きで、ここまで変わる

  • 『100日の嘘』──思想を持たないスリが植民地の京城を渡り歩く

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◇ムカサリ絵馬と『山寺グラフィティ』──藤子・F・不二雄の「元ネタ」に気づく

 祝日だった夜、NHKの『感情の惑星 ~AIで世界の心を追跡~』という番組をだらだら観ていました。MCのひとりがヒコロヒーだったので、チラチラ見ていたのです(ヒコロヒー大好き!)。

 これは、世界のニュースに含まれる感情をAIで分析し、その感情が高まっている場所を実際に訪ねるというオムニバス形式の情報番組。実際はAIはあまり関係なく、世界の変わった文化を紹介するだけなんですけど。

 そのなかで、山形の一部地域に伝わる「ムカサリ絵馬」が紹介されていました。「ムカサリ」は、この地方の言葉で結婚のこと。未婚で亡くなった人のために、遺族が架空の相手との結婚式の絵を描いて寺に奉納するという文化です。死後の世界でもその人の人生が続いていく、という考え方です。

 紹介されていた絵は素人が一生懸命に描いたようなものが多く、少し不気味でもありました。ただ怖い話というより、とても独特な文化だと感じました。

 ただ、観ていて「あれ、なんか知っているな」と思ったのです。そう、藤子・F・不二雄の短編『山寺グラフィティ』(1979年)でした。

 これは、山形から上京してイラストレーターの卵として働く青年のもとに、高校時代に亡くなった幼なじみにそっくりな少女が現れ、何も話さずに去っていくというもの。帰省すると、少女の両親が山寺(立石寺)で、娘の顔を象ったこけしやミニチュアの家財道具を納め、供養を続けていたという展開です。

 つまり、死後の世界で娘が成長していくように、という話です。1979年の作品ですが、調べてみるとやはりムカサリ絵馬などの山形の風習が下敷きになっているようです。なるほど、元ネタがあったのか。F先生、やっぱり博学だな、と感心。

藤子・F・不二雄『山寺グラフィティ』(1979年)

藤子・F・不二雄『山寺グラフィティ』(1979年)

 人が亡くなるのはもちろん悲しいことですが、その後もあの世で人生が続いていくと考えると、そこにはポジティブな側面もあります。人が生きる、死ぬという感覚そのものを考え直させるところがあります。なぜ山形の一部の地域にだけ残っているのかはよくわかりませんが、ひとつ発見がありました。

 そういえば、中1のときの夏休みの間に同級生が急死しました。脳腫瘍でした。彼とは小学校は別で、別のクラスだったけど入学後の4か月間でそこそこ仲良くなっていました。

 ただ、夏休み明けに彼の死を知らされたので、私は葬式には出られませんでした。それが心残りで墓参りに行こうかと思い、10年ほど前の同窓会のときに、どこにお墓があるか同級生に聞いてみました。

 すると、「お母さんが、彼がひとりじゃ寂しいだろうからって、お墓は建ててないよ」と返答されました。そういうことも思い出しました。 

 『山寺グラフィティ』は以下に収録されているようです。

◇『リンダ リンダ リンダ』──ゼロ年代日本映画の最高傑作のひとつ

 Netflixに『リンダ リンダ リンダ』の4Kリストア版が入っていたので、観ました。とはいえ、私はDVDも持っていて、その後もことあるごとに観直してきた作品です。本当に大好きな映画です。2005年の公開なので、当時の私はまだ30歳前後でした。

 簡単に説明すると、高校の文化祭でバンドをやろうとしていた女の子たちが、仲違いやメンバーのけがでボーカルを失い、たまたま通りかかった韓国人留学生をボーカルに引き入れる、というお話です。その留学生・ソンさんを演じたのが、ペ・ドゥナさんです。

 ペ・ドゥナさんは、当時の日本ではまだほとんど知られていなかったと思います。私が初めて彼女を知ったのは、ポン・ジュノ監督の長編デビュー作『吠える犬は噛まない』(2000年)でした。韓国語の原題は『フランダースの犬』。団地で起きる犬の連続失踪事件を、ペ・ドゥナさん演じる主人公が追うブラックコメディです。かつて犬を食べていた韓国で、近代化とともに犬が食料からペットになっていく状況を背景にした、とても示唆的な作品でした。

 その後で『子猫をお願い』という映画も観ました。『吠える犬は噛まない』の翌年公開で、ペ・ドゥナさんが主演。こちらはインディペンデント系の映画ですが、とても印象に残る作品でした。

 ポン・ジュノ監督はその後、『殺人の追憶』(2003年)で大ブレイクします。ペ・ドゥナさんは監督の長編3作目『グエムル -漢江の怪物-』(2006年)にも出演し、ソン・ガンホ演じる主人公の妹役を演じました。この作品は日本でも大きく宣伝されましたが、興行的には苦戦しています。

 2009年には是枝裕和監督の『空気人形』に主演。私はあまり好きな映画ではありませんが、なんにせよ日本と縁の深い俳優です。その彼女が日本で初めて出演したのが、この山下敦弘監督の『リンダ リンダ リンダ』だったのです。

 この映画を一言でいえば、青春期のぼんやりした、曖昧で適当な行動を描いた作品です。多くの人がこの作品に感傷的になってしまうのは、主人公の4人がかなりデタラメで適当だからでしょう。人間関係にはセンシティブな部分もありますが、基本的には普通の女の子たちで、だからこそ適当。

 山下監督は解像度の低い青春期の適当さをすごく繊細に撮っていて、脚本もいい。みんなデタラメで、いろいろうまくいかないのに、なぜか最後だけたまたまうまくいく。若いころのだらしなさも含めて、そこに強く共感してしまいます。ゼロ年代の日本映画の最高傑作のひとつだと思っています。

 音楽も、劇伴を含めてとてもいい。仕事中にだらだら流しておくのにもぴったりです。ペ・ドゥナさんは、日本語がよくわかっていない留学生の役を当時20代半ばなのに高校生として演じています。これが見事。歌も特別うまいわけではなく、ちょうどよくうまい。久しぶりに観て、あらためて感心しました。ゼロ年代でいえば、私は『メゾン・ド・ヒミコ』と、この『リンダ リンダ リンダ』が大好きです。

 山下監督についても少し。この映画公開当時にはまだ山下監督にインタビューしていなかったのですが、数年後の『天然コケッコー』(2007年)、そして前田敦子さん主演の『もらとりあむタマ子』(2013年)のときに話を聞きました。前者はくらもちふさこの原作を、渡辺あやさんが脚本にした作品です。長い原作の要素をきちんと入れていて、島根に住む渡辺さんの縁もあって、当時の夏帆さんを島根で撮っています。これも素晴らしい映画です。

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