【Column】30年通っても好きになれない国会図書館の話──日本の中心で飯がまずい
行く日は昼飯のことをまず考える
ときどき国会図書館に行きます。もちろん仕事のための調査。
行く日は、朝から段取りが決まっています。最初に考えるのは、調べる資料のことではありません。昼飯をどこで食べるかです。
通いはじめて30年近く。今年もすでに3、4回行っていて、来週もまた行きます。それだけ通っていても、いまだに毎回お昼ごはんのことから考えなければなりません。国会図書館はそういう場所です。
行ったことのない人にはピンとこない話だと思うので、どういう場所なのかも含めて、順にご説明します。
日本の出版物が全部ある
国会図書館、正式には国立国会図書館は、1948年にできた日本で唯一の国立図書館です。国会に属していて、議員の調査を支えるのが本来の役割のひとつ。ただし、満18歳以上なら誰でも無料で使えます。資料を使うには、まず本人確認書類を持って利用者登録をする必要があります。
ここの何がすごいかというと、日本で出版された本や雑誌が、ほぼすべてあることです。納本制度といって、出版社は本や雑誌を出したら国会図書館に納めることが法律で決まっている。だから、ほかの図書館がとっくに捨ててしまった古い雑誌も、ちいさな出版社の本も、ここには残っています。専門家にとっては、なかなか替えのきかない場所なのです。
ところが、日本の本が全部あるのに1冊も借りられません。しかも蔵書のすべては書庫にあって、利用者は書庫に入れない。読みたい資料を端末で検索して請求し、職員に出してもらう仕組みです。
地下迷路・永田町駅
最寄り駅は東京メトロの永田町駅です。地方の方にはなじみが薄いかもしれませんが、永田町駅はかなり大きな駅です。有楽町線、半蔵門線、南北線の3路線が乗り入れているうえに、銀座線・丸ノ内線の赤坂見附駅とも地下でつながっていて、改札を出ずに乗り換えられる。地下を5路線が行き交う、ちょっとした迷路です。
有楽町線のホームから赤坂見附駅まで構内を歩くと、15分くらいかかります。駅の中だけで、国会図書館まで地上を歩くより長いわけです。雨の日とかはいいんですけどね。
国会図書館にいちばん近いのは、有楽町線のホーム側にある2番出口で、そこから歩いて5分ほど。半蔵門線や南北線で来ると、3番出口から8分ほどかかります。丸ノ内線・千代田線の国会議事堂前駅からも行けますが、こちらは12分ほど歩くようです。
この永田町駅の改札内には「Echika fit 永田町」という駅ナカの飲食店街があります。半蔵門線と有楽町線を結ぶ連絡通路沿いにあって、ちゃんと座って食べられる店がいくつも並んでいる。ここで食べてから行けばいいことは、もちろんわかっています。
ただ、Echika fitは有楽町線の2番出口とは真反対の側にあるんですね。有楽町線で来ると、一度逆方向に行って戻らなければならない。わかっていても、毎回そこで躊躇します。
地上に出ればそこは永田町。国会図書館は国会議事堂のすぐ北側で、隣には衆議院議員会館です。右翼の街宣車が大音量で軍歌を流してよく通っていてうるさいです。ところどころに警察官が立っていて、お店は1軒もありません。
日本の中枢であることはよくわかるのですが、生活の気配がまったくない。近くにあるのは日比谷高校くらいで、飲食店を探すなら赤坂か麹町まで15〜20分は歩くことになります。
ロッカーと透明な袋
入館するとき、荷物はすべてロッカーに預けます。資料の盗難を防ぐためです。持ち込めるのは必要最小限で、館内用の透明な袋に入れて持ち歩く。私の場合はノート、クリアファイル、タブレット端末、ボールペン、そしてマグ(水筒)です。
ちょっと前まではこの袋が本当にただのビニール袋で、中身が丸見えのそれをぶら下げて歩く大人の集団は、なかなかの光景でした。いまは100円ショップで売っているバッグの袋になって、持参しなくても大丈夫になりました。
荷物を預けて入館してしまうと、なかなか外へ出る気は起きません。店まで15〜20分、往復で30~40分、ロッカーから荷物を出してまた預けて。だから昼食は入る前に済ませるか、出てから食べるか、どちらかしかない。長年通って行き着いた結論がこれです。
待ってばかりの90年代
初めて国会図書館に来たのは、おそらく1995年か96年ごろ、20代前半のころです。何の仕事だったかは覚えていないのですが、延々待たされた記憶だけははっきりと覚えています。
当時はすべて紙でした。目録で資料を探し、請求番号を用紙に書いて出す。書庫から資料が届くまで40分~1時間。届いたら、複写したい箇所を書き出して申し込む。館内の資料は自分でコピー機にかけられず、複写も職員に頼むので、コピーができあがるまでまた待つ。
これで3、4時間が消えます。資料を読んでいる時間より、待っている時間のほうがずっと長かったのです。家からの往復時間も考えると、丸一日つぶれる覚悟が必要でした。
2000年代に入ると館内の端末で請求できるようになり、格段に楽になりました。00年代の後半は『ギャルと不思議ちゃん論』(2012年)の調査もあって、月に1~2回は通っていました。ただ、便利になったのは請求の手続きまで。届いた雑誌の現物をめくり複写を申し込んでまた待つ流れは、90年代と変わりませんでした。
国会図書館では単純作業
しばらく間が空いて、久しぶりに行ったのはコロナ禍のさなかでした。驚いたのは、デジタル化がかなり進んでいたことです。
デジタル化された資料は、読める場所で大きく3つに分かれます。
①著作権が切れたものなど、ネットで誰でも見られてPDFで保存もできるもの。
②利用者登録してログインすれば自宅から見られるもの(絶版など入手困難な資料が対象で、2022年5月に始まりました)。
③館内の端末でしか見られないもの。戦前から戦後まで出ていた『少年倶楽部』や、いまも出ている『週刊文春』は、デジタル化されているのに館内でしか読めません。
もちろん、デジタル化されておらず紙でしか見られない資料もまだたくさんあります。
しかも2022年12月のリニューアル以降、デジタル化資料の本文はOCR(画像から文字を読み取る技術)でテキスト化されていて、単語で全文検索ができるようになりました。思いがけない記事がずらっと出てきます。「これまで言われてきたことと話が違うぞ!」みたいな発見も、そのうち出てくるのではないでしょうか。
というわけで、いまの私の国会図書館の使い方はこうです。
事前にGoogleスプレッドシートでチェックリストを作っておき、館内ではタブレットでそれを開いて、資料を画面で確認しては印刷を申し込みます。とくに③ですね。確認したらチェック。次。チェック。次。デジタル資料の印刷は1回100枚まで、紙の資料は1回10冊まで。
中身はほとんど読まずに複写(印刷&コピー)に集中します。やっていることは、ほぼ単純作業です。
紙の資料しかない場合は、もう少し面倒くさいです。出てくるまで15〜20分。届いたら、複写申込用紙(これも印刷します)にコピーの範囲を手書きで記入し、複写したいページの最初と最後にしおりを挟み、新館2階からエレベーターで1階の複写カウンターへ降ります。昔はこれを延々やっていたわけで、なかなか大変でした。
独り言率が高い
利用者は、大学院生らしき人、在野の研究者らしき人、外国の人(おそらく大学院生)。秋になると卒論の学部生が増える感じもあります。昔は妙に年配の方が多かったのですが(だいたい歴史研究)、最近は少し減りました。
そして、ぶつぶつと独り言を言っている人の割合がものすごく高いです。これは昔からあまり変わりません。